ジョン
映画の中の情熱的な侍と言えば、だれでも三船敏郎(みふねとしろう)や千葉真一(ちばしんいち)の顔を思い出す。かれらは、正義のためなら迷いなく命さえ捨てられる。しかし、正義とはどういうもの何だろうか。その侍がもしニヒリスト(虚無主義者)だったら、きっとおもしろいのだろう。
眠狂四郎 (ねむりきょうしろう)はまさにそのような侍だ。家族も家も持たない眠は浪人で、江戸のいたずら者だった。彼は情熱どころか、冷たくて、優しさより皮肉屋で、どこまでも反英雄だった。 眠の物語は1956に時代劇小説で描かれ、やがて大映の映画に生まれ変わった。1964年に作られた「眠狂四郎女妖剣」(ねむりきょうしろう・じょようけん)はシリーズの第四目である。こんどは、眠の相手が多かった。阿片中毒となった将軍の娘、阿片と関係ある人たち、それも不逞ならず者のキリスト教信者。誰であろうと、眠は偽善者を憎み、切るしかない!
市川雷蔵(いちかわらいぞう)の演技が有名で、50年代から二枚目俳優だった。彼の眠は、美しい顔と冷たい性格という、普通なら女性的な特徴をもった。その結果、市川の眠は不気味だった。市川に対して、若山富三郎(わかやまとみさぶろう)のチンソンは眠と同じくいい度胸だから、いかにも相応しい相手だ。この二人のやりとりは実に楽しい。敵ながら互いの会話には遊びが満ちて、負けん気だ。それに「女妖剣」は前のシリーズに比べて変わった。眠は前より暗く、戦いは多かった。けんかで眠はかれの得意技「偃月さっぽ」をよく使った。つまり、両手で剣を握り、丸を書く。丸を完全に書く前に、相手はきっと攻撃する。その時は「つきあり」と切り返す。一撃一殺で「眠は無敵な人殺し機械だ」と感じさせる。
時代劇のアクションは、おもしろい、あるいはつまらないという両極端な可能性がある。でも、この映画では、戦いの撮影は素晴らしい。たとえば、忍者に襲われた眠は、さっと大小を抜いて斬りつく。アクションは複雑ではないが、早くて、無駄がない。それに、後の半分は市川の無感情なパフォーマンスだ。その「どうでもいい」態度は眠の勝ちを残酷ほど高める。
眠狂四郎のシリーズを一つだけ見るなら、「女妖剣」を勧めたい。面白くて豪快な作品だ。
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